📝 解説記事|運転者の労働時間のルールを守りたい(運送業)
運送会社の変形労働時間制が「チグハグ」になりやすい理由
公開日: 2026年10月2日 更新日: 2026年10月10日
こんにちは。
YUTOLI社会保険労務士・FP事務所の吉元です。
今回は、運送業の経営者・経営幹部、人事総務担当者の皆さまからご相談を受けることの多い、「労働時間制度」についてお話しします。
テーマは、変形労働時間制です。
変形労働時間制は、業務の繁閑に合わせて労働時間を配分することができる制度です。
一見すると、運送業との相性が良さそうに思えます。
実際、運送会社でも変形労働時間制を採用しているケースがあります。
ところが、制度の内容を確認してみると、
「変形労働時間制を採用しているはずなのに、実際の労働時間管理と合っていない」
「就業規則には制度が書かれているけれど、現場ではそのように運用されていない」
「変形労働時間制を採用していることで、かえって労働時間管理が分かりにくくなっている」
といったケースがあります。
なぜ、このような「チグハグ」が起こるのでしょうか。
■変形労働時間制とは何か?
そもそも変形労働時間制とは、一定の期間を平均して、法定労働時間の範囲内に収まるように労働時間を配分する制度です。
通常の労働時間制度では、原則として、
1日8時間・1週40時間
が法定労働時間です。
これを超えて働かせる場合には、原則として36協定に基づく時間外労働として扱う必要があります。
一方、変形労働時間制では、一定の要件を満たすことで、特定の日や週に法定労働時間を超えて労働させることが可能になります。
ただし、
「変形労働時間制なら、好きな日に長時間働かせてよい」
という制度ではありません。
ここを誤解すると、労働時間管理が大きく崩れてしまいます。
■運送業で「変形労働時間制」が難しくなりやすい理由
運送業では、日々の仕事が予定どおりに進むとは限りません。
荷主からの急な依頼。
道路渋滞。
荷待ち時間。
積込み・荷下ろしの時間。
配車変更。
交通事情。
ドライバーの欠勤。
こうしたさまざまな事情によって、実際の運行時間が変わります。
つまり、
「あらかじめ決めた労働時間どおりに働く」
ということが難しい場面があります。
ここに、変形労働時間制の難しさがあります。
■変形労働時間制は「後から帳尻を合わせる制度」ではない
変形労働時間制について、特に注意したいのが、
「実際に長く働いた日があったから、後で他の日を短くすればいい」
という考え方です。
変形労働時間制では、あらかじめ定められた労働日・労働時間などについて、法令上の要件を満たしている必要があります。
つまり、
「今日は10時間働いた」
↓
「じゃあ別の日を6時間にしよう」
というように、実際の勤務状況を見ながら後から自由に調整できる制度ではありません。
この点を理解しないまま制度を導入すると、実際の運用と制度設計が食い違ってしまいます。
■「就業規則に書いてある」だけでは十分ではない
変形労働時間制を採用する場合、就業規則などに制度を定めることがあります。
しかし、
「就業規則に変形労働時間制と書いてある」
ことと、
「実際に変形労働時間制が適法に運用されている」
ことは別問題です。
例えば、
・変形期間はどのように設定されているか
・各勤務日の労働時間はどのように定めているか
・勤務シフトはいつ確定しているか
・変更はどのように行っているか
・実際の労働時間はどう管理しているか
・36協定との関係はどうなっているか
などを確認する必要があります。
制度の「名前」だけが存在していても、実際の運用が伴っていなければ、労働時間管理としては不十分です。
■運送会社で起こりやすい「チグハグ」
例えば、会社では1か月単位の変形労働時間制を採用しているとします。
ところが、現場では、
「明日の仕事が増えたから出勤時間を早める」
「荷主の都合で予定が変わった」
「急な配車変更があった」
ということが頻繁に起こります。
その結果、当初予定していた労働時間と実際の労働時間が違ってくる。
さらに、勤怠管理では実労働時間を集計し、給与計算では別の基準を使い、36協定ではまた別の数字を確認する。
こうなると、
「会社の労働時間制度」
「現場の勤務実態」
「勤怠管理」
「給与計算」
が、それぞれ別々に動くことになります。
これが、私が「チグハグ」と表現している状態です。
■労働時間制度は「給与計算」だけの問題ではない
変形労働時間制を検討するとき、どうしても、
「残業代をどう計算するか」
という給与計算の視点だけに目が行きがちです。
しかし、本来はもっと大きな問題です。
労働時間制度は、
「会社が従業員をどのように働かせるのか」
という、会社の働き方そのものに関わります。
そのため、
・就業規則
・労働契約
・36協定
・勤務シフト
・勤怠管理
・給与計算
・実際の運行
が、一つの仕組みとしてつながっている必要があります。
■36協定との関係も整理する
変形労働時間制を採用したからといって、36協定が不要になるわけではありません。
変形労働時間制によって法定労働時間の考え方が変わる部分と、36協定によって時間外労働を可能にする部分は、整理して考える必要があります。
例えば、
「変形労働時間制だから残業代は発生しない」
という理解は適切ではありません。
変形労働時間制を採用していても、法定労働時間を超える時間外労働が発生すれば、時間外労働としての管理が必要になります。
さらに運送業では、トラックドライバーについて時間外労働の上限規制や改善基準告示による拘束時間・休息期間等のルールも関係してきます。
つまり、運送会社の労働時間管理は、
労働基準法だけを見ても、改善基準告示だけを見ても不十分です。
それぞれの制度を関連付けて考える必要があります。
■「制度を導入すること」より「制度が現場に合っているか」
変形労働時間制は、適切に活用すれば、業務の繁閑に合わせた労働時間の配分が可能になる制度です。
しかし、制度にはそれぞれ前提となるルールがあります。
そのため、
「他社も導入しているから」
「就業規則に入れておけば安心だから」
「残業代を減らせそうだから」
といった理由だけで導入するのは避けたほうがよいでしょう。
重要なのは、
「自社の働き方に本当に合っているのか?」
ということです。
■運送業では「制度」と「現場」の距離を縮める
運送業の労働時間管理を考えるとき、私は「制度」と「現場」の距離を縮めることが重要だと考えています。
例えば、
「就業規則にはこう書いてある」
だけではなく、
「実際のドライバーは何時から何時まで働いているのか」
「勤務シフトはいつ決まるのか」
「急な配車変更はどの程度あるのか」
「荷待ち時間はどの程度発生しているのか」
「勤怠記録と運行記録は一致しているのか」
など、実際の仕事の流れを見る必要があります。
そのうえで、
「この会社には、どの労働時間制度が合っているのか」
を考える。
これが、本来の制度設計です。
■運送業以外の会社にも共通する話
ここまで運送業を中心にお話ししましたが、今回のテーマは運送業だけのものではありません。
製造業、小売業、建設業、サービス業など、勤務時間が一定ではない会社では、変形労働時間制を検討することがあります。
しかし、どの業種でも基本は同じです。
制度を先に決めるのではなく、自社の働き方を把握してから制度を考える。
そして、
「就業規則」
「36協定」
「勤務シフト」
「勤怠管理」
「給与計算」
「実際の労働時間」
を一つの仕組みとしてつなげること。
これが、適切な労働時間管理につながります。
■まずは「自社の労働時間制度」を確認してみる
経営者・経営幹部、人事総務担当者の皆さまは、ぜひ一度、自社の労働時間制度を確認してみてください。
変形労働時間制を採用している場合には、
「制度上の勤務時間」と「実際の勤務時間」が一致しているか。
そして、
「就業規則・36協定・勤怠管理・給与計算が同じ考え方でつながっているか。」
を確認してみることをおすすめします。
運送会社の場合は、そこにドライバー特有の労働時間管理や改善基準告示も加わります。
「制度はある。でも、現場では違う動き方をしている。」
この状態が続けば、労働時間管理は複雑になっていきます。
変形労働時間制は、単に「残業時間を調整するための制度」ではありません。
自社の働き方に合った労働時間制度を設計し、それを現場で無理なく運用できる状態をつくる。
そこまで考えて、初めて制度が会社の力になります。
運送業の労働時間制度、36協定、改善基準告示、就業規則、賃金制度などについて、自社の実態に合わせて見直したい経営者・人事総務担当者の方は、ぜひ一度、現在の制度と現場の運用を確認してみてください。
詳しい内容は、こちらの記事でも解説しています。
▶︎ **【運送業の❝気になる話❞】変形労働時間制を採用する運送会
